国民の自衛官 横顔(8)完

「空飛ぶICU」で患者に寄り添う 自衛隊岐阜病院 矢嶋祐一1等空佐(54)

機動衛生ユニット内で患者の搬送にあたる矢嶋祐一1等空佐(手前、自衛隊岐阜病院提供)
機動衛生ユニット内で患者の搬送にあたる矢嶋祐一1等空佐(手前、自衛隊岐阜病院提供)

 臓器移植を受ける患者や小児重症患者など、「公共性」「非代替性」「緊急性」の三要素が重なった極めて重篤な患者を空輸する災害派遣活動に6年間で24回、現場リーダーの医師として参加。その全てで無事に搬送を果たした。

 C130輸送機に高度医療機器を備えた機動衛生ユニットを搭載し、医療行為を中断することなく専門医療機関に引き渡す。人工呼吸器や輸血ポンプなどが装備され、「空飛ぶICU(集中治療室)」と呼ばれるが、設置できる機器は地上ほど多くない。「全てが整ってない状況では工夫が不可欠」だ。

 終始緊迫する搬送の中でも、搬出入時は特に神経を使う。呼吸器や針を入れた患者にはわずかな振動も許されない。「患者さんを到着地で救急車に乗せて初めて安堵する」

 平成24年8月、50代女性を青森空港から岡山基地まで搬送。県防災ヘリでは途中給油などで8時間、民間では機内準備のために2日必要とされた任務を2時間で完遂し、肝腎同時移植の国内初の成功例となった。「私一人では無力だが、部隊の仲間や病院、消防、空港など携わった全員の熱意のたまもの」とチームワークを強調する。

 現在は後進の指導にもあたる。「自分の家族が深刻な状態になったときに『俺がやる』と言い切れる」知識と技術を求める。癒やしは「(愛犬)クッキーとの散歩。溺愛かな」。この時ばかりは相好を崩した。(三宅有)

=おわり

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