最初の出会いから数年が経ち、A子は結婚した。相手は井上さんではなく、40代の誠さん=仮名。しかしその後も、井上さんとの関係は続いた。誠さんが疑うことはなかった。女友達と遊んでいると思っているようだった。
A子は妊娠した。どちらの子供かはっきり分からなかった。だが当然ながら、夫との子として届け出た。
--妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する(民法772条1項)
A子はようやく、井上さんとの関係を断ち切ろうと決意した。
非情なDNA鑑定
井上さんは妊娠していることを知って、「だれの子なの」と何度も尋ねた。A子は答えず、曖昧にしていた。出産後は携帯電話の番号を変え、自然消滅を図ろうとした。およそ1年、音信不通の状態になった。
ある日、A子の実家にベビー用品のプレゼントが届けられた。井上さんからだった。A子はつい「ありがとう」とメールを送ってしまう。そして再び、2人のやり取りが始まった。
井上さんは1年間の不義理を責め立てたりはしなかった。それが好印象に映った。また会ってもいいな-。そう思った。
A子は井上さんとのデートに長男を連れて行った。別れ際にはいつものように現金入りの封筒をもらった。
しばらくして井上さんは「(子供を)認知したい」「結婚したい」と言うようになった。A子のことは、シングルマザーだと思い込んでいたという。井上さんなりに、誠意を示そうという気持ちがあったのかもしれない。もちろんA子はその申し出を拒否していた。