夢を追う

漫画家 藤見よいこさん(1)ままならない恋愛描きたい

 ■生まれ育った北九州を舞台に

 戦国時代や終戦直後など歴史を舞台に、現代に通じる恋愛劇を描く漫画家が、北九州市にいる。藤見よいこ氏(25)だ。ウェブに投稿した漫画が編集者の目にとまり、デビューした。緻密な取材に裏打ちされた細かな描写に、大胆なストーリーを絡める。著名漫画家を輩出した北九州市から、若手漫画家がまた一人、羽ばたく。

 《今月、自身3冊目となる単行本「だんだん街の徳馬と嫁」の上巻が発売された。戦死したとされながら帰還した兄と、その兄の妻をすでにめとった弟-。終戦直後の北九州・八幡を舞台に、三角関係を描く》

 ままならない恋愛を描きたいと思ったんです。当時、戦死した兄の妻を、弟がめとることは珍しくありません。そこに、製鉄所の煙突の風景を重ねました。私が生まれ育った北九州市は製鉄の街です。八幡の高校に通いましたから、煙突は身近な存在でした。

 私、はっきり言ってオタク気質なんです。インプット作業が好きというか。

 今回の作品もアウトラインを決めてから、製鉄業の盛衰を描いた昭和史の本を30冊くらい読みました。

 終戦直後、製鉄は花形産業で、職人はもてはやされた。それが「鉄冷え」の時代になり「きつくて、まともな人がやるものじゃない」と変わっていく。この悲哀も、漫画で表現したかった。

 元製鉄マンにも話を聞きました。登場人物の設定より10歳くらい下の方です。その話で、構想がさらに膨らみました。

 「高炉の火が消えたときは、悲しくありませんでしたか」と尋ねると、その人はこう答えたんです。

 「それも時代だからね」

 言葉は悪いかもしれませんが「もの悲しくて、なんていいのだろう」と、思いました。高炉の火が消える瞬間は、絶対に盛り込みたいと思いました。そこにヒロインの死を重ねたら-。物語の結末が見えた瞬間でした。

 《「だんだん街…」は、月刊誌に連載された。連載作業は大変だった》

 ストーリーと絵を粗く描く、いわば漫画の設計図を「ネーム」というんですが、これがなかなか通りませんでした。私の編集担当者は、きついことを平気で言う人なんです。

 「想像以上のことが起こらない!」

 「藤見さん自身がドキドキしていないでしょう?」

 「淡々としすぎている」

 漫画家として私は、決して絵がうまくありません。なので、セリフやストーリーをいじって、1話ごとに盛り上がりを持たせないといけない。例えば、1ページに1コマだけを描くとか、大胆なコマ割で、泣き叫ぶ表情をドカンと見せたり、爆発シーンを入れたり…。

 月刊誌で読み切りものを描いたことはありましたが、連載は初めてです。ハードルの高さを痛感しました。

 ネームに1週間、作画に2〜3週間です。私は全てパソコンで描くんですが、1日10時間座りっぱなし、なんてこともざらにありました。

 「このまま永遠に終わらないんじゃないか」。そんな考えに陥ったりもしました。

 そんなとき、普段からやっている家事が、良い気分転換になりました。特に料理です。実家暮らしですから、いつも父や弟、妹にご飯を作っています。漫画と違って、料理なら終わりが見えるでしょう(笑い)。

 でも20年、30年描いているベテランの先生方と並んで掲載していただける。これくらいの苦労は、当たり前ですよね。

 《ストーリーは、当初の構想から徐々に変化していった》

 最初に考えていたストーリーと、実際のストーリーがどんどん乖(かい)離(り)していくのも連載ならではです。

 最初、救いのない話を考えていました。生きて帰ってきた兄と、その弟が、ヒロインを取り合うわけですが、最後の最後、全員殺してしまおうと思っていたんです。兄弟も決別したまま、ヒロインも死に、兄の子供だけが残される-というような。悲惨でしょう?

 ですが、編集担当者に「連載作品は読者が感情移入するので、明るいストーリーの方が好まれるよ」とアドバイスを受けました。

 漫画のキャラクターって、作者の私の手を離れ、読者のものになるんです。それなら、読者に委ねるのもいいかな、と思いました。

 今年8月で全11話が完結しましたから、ネタバレも問題ありません。最終的に、兄弟は和解します。ヒロインは弟を選んで長く生きた後、製鉄所の高炉の火が消えると同時に亡くなる、という結末になりました。

 《現在は北九州市の実家を拠点にする。今後は東京への移転も視野に入れる》

 編集担当者の指導のおかげもあり、連載はどうやら好評でした。

 ネットで作品名を打ち込むと「北九州弁の女の子がかわいい」など、書き込みもありました。もちろん「絵が下手」とか、批判も少なからずあります。でも、批判でも悪口でも、何らかの手応えがある方がうれしい。

 今は実家暮らしで、パソコンで描き、データで編集担当者に送っています。3年前に母が亡くなり、高校生の双子の弟と妹の面倒を見てきました。来年から2人とも大学生なので、もう大丈夫でしょう。そろそろ拠点を東京に移そうかと思っています。

 今も漫画を描くには支障はないのですが、やはり編集担当者と顔をつきあわせて話をすると、何気ない雑談の中からいろんなアイデアが生まれるんです。

 デビュー前は、漫画で食べていけるなんて夢みたいだと思っていました。

 でも、せっかくチャンスを頂けたので、全力で取り組める環境に身を置きたいと思っています。

                   ◇

【プロフィル】藤見よいこ

 ふじみ・よいこ 平成4年8月、北九州市小倉北区出身。23年3月、福岡県立八幡中央高校芸術コースを卒業。スペイン留学中の26年1月、戦国武将とその妻の日常を描いた「ふたりじめ 戦国夫婦物語」(実業之日本社)でメジャーデビューした。「ふたりごと」は続編。「だんだん街の徳馬と嫁」は、小学館の月刊スピリッツに28年9月〜今年8月まで連載した。本名は非公表。

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