良心を曲げずに自ら信じる政治的意見を述べつつ、かつ反体制分子として排除されないためにはどうすればいいか。馬が論文の題材として選んだのは、抗日戦争中に英雄的な最期を遂げた中国共産党の詩人が残した、一人の死んだ日本兵を悼む詩だった。そうして党の公定イデオロギーの枠内でも、対日融和は可能であることを示す。体制内知識人として可能な最大限の勇気の発露であると同時に、ある種の思想的脱構築の試みでもある。
もともと月刊誌というスタイルは目まぐるしく動く政局報道への追随を苦手とする。解散総選挙の日程が慌ただしく決まったことで、今月号の論壇誌に並ぶ7月の都議選を元にした論考は早くも古さを感じさせるようになった。世界の特集「『1強』は崩壊したのか」もその弊を免れていないが、面白かったのは中北浩爾と中野晃一という政治学者同士の対談「政党政治の底上げは可能か」。「安倍政権の終わり」に露骨に期待をにじませる中野が次々差し出すフックに、政権はまだ底堅さを持つとみる中北が一向に乗らないのだ。政権打倒へ向け、従来棄権していた層に投票を促し、個人主義的なリベラルを組織化すべきだという中野の訴えに対しても、中北は「砂で城をつくるようなものではないですか。都民ファーストの会を見ても、無党派の有権者は、リベラルじゃなくてネオリベラルに傾きやすい」と冷たい。根本的な部分でかみ合っていないのが浮き彫りになっているのだが、それもまた論壇誌の対談の妙味であろう。=敬称略