平成31年度内の完成をめざす八ツ場ダム(長野原町川原湯)の建設工事が正念場を迎えていた。膨大な水をせき止めるダム本体の下腹部で、洪水時に水を放流する巨大な放流管の設置作業が始まったからだ。3割ほど完成した本体の上に移動する作業は微妙なバランスを要し、「移動中に大きな地震でもきたらアウト」。最難関作業の現場を取材した。
放流管は、ダム本体に設置する「常用洪水吐(じょうようこうずいばけ)」の内部装置。長さ22・5メートル、高さ10メートル、重さは350トンという巨大な管で、ダムの洪水調節機能を担う最重要設備の一つだ。19日に公開されたのは、ダム本体脇の仮置き場(高さ40メートル)で組み立てた放流管を本体設置部分に平行移動させる作業。わずか37メートルの移動に作業員は細心の注意を払った。
レール状にした巨大な鉄骨の上で、ローラーに乗せた放流管をジャッキ2台で支えながら動かしていく。傾きや蛇行は許されない。37メートルに約3時間。移設管は2つあるため2日がかりとなったが、地震もなく、作業は無事終了した。
放流管は高さ116メートル、幅291メートルとなるダム本体の高さ40メートル付近に移設され、今後は周囲を固めていく。「ダム完成後は放流管を視認することは難しく、じっくり観察できるのは工事中しかない」という。
八ツ場ダムは70年前の昭和22年9月、群馬を始め関東全域に甚大な被害をもたらしたカスリーン台風を教訓に計画が持ち上がった。平成26年の着工までに紆余曲折(うよきょくせつ)を経たが、現在は24時間態勢で1日450人が工事に携わる。その様子を新たな観光資源にしようと、4月からダム見学案内ツアーが始まった。コンシェルジュが案内するツアー参加者は7月に2200人、8月に1500人で、11月まで予約でいっぱいという。
集中豪雨が各地で観測される現在、ダムが治水に果たす役割はカスリーン台風当時より高まっている。