産経抄

「13歳少女誘拐」に言及した、トランプ大統領の国連演説は名演説になり得るか 9月21日

 パキスタンで女子教育の権利を訴えていたマララ・ユスフザイさんは2012年10月、イスラム武装勢力に銃撃される。「テロリストは私の希望を砕こうとしたが、誰も私の行動を止めることはできない」。

 ▼九死に一生を得て9カ月後、16歳の誕生日を迎えたマララさんは、ニューヨークの国連の演壇に立っていた。史上最年少のノーベル平和賞の受賞者にもなるマララさんは、この言葉で演説を締めくくる。「Education first(教育を第一に)」。国連の歴史に残る名演説だった。

 ▼「America first(米国を第一に)」を掲げる、トランプ米大統領の国連総会での一般討論演説はどうだろう。核・ミサイル開発に突き進む北朝鮮に対して、「完全破壊」の選択肢まで示した。議場からどよめきが起き、北朝鮮の国連代表部が退席するのに十分な迫力である。

 ▼「13歳のかわいらしい少女が誘拐され、北朝鮮スパイへの語学教育を強要されている」。拉致被害者の横田めぐみさんに言及したことにも驚いた。被害者家族からは、発言を歓迎する声が上がっている。

 ▼ただ、トランプ氏は北朝鮮を激しくののしるだけで、結局は核保有を認めるのではないか。そんな疑念も捨てきれない。拉致被害者の救出については、当然ながらあくまで日本政府の責務である。具体的にどのように北朝鮮から奪還するのか、必要な施策は何か。報道通りに総選挙が実施されるのなら、最大の争点とすべきだろう。万一朝鮮半島が争乱状態に陥った場合、現在の憲法解釈の下では、自衛隊の救出活動は著しく制限される。

 ▼トランプ大統領の国連演説が名演説と語り継がれるかどうかは、今後の日米両政府の行動にかかっている。

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