産経抄

9月19日

 新潟県長岡市に住む読者から、今月刊行したばかりの著作が送られてきた。山本甲一の筆名で書いた『剣道大臣』(島津書房)である。主人公の笹森順造は教育者として、明治時代に青森県で最初に開校した私学校、東奥義塾の塾長や青山学院長を歴任する。

 ▼戦後は政界に転じ、復員庁総裁などを務めた。一方、GHQによって禁止になった剣道の復活に力を注ぎ、剣道大臣の異名を持つ。先月84歳で亡くなった、牧師にして「小野派一刀流第17代宗家」笹森建美(たけみ)さんの父親でもある。

 ▼順造は昭和21年の衆院総選挙に青森全県区で出馬し、トップ当選を果たしている。もっとも本人も支持者も政治にはずぶの素人とあって、選挙戦はハプニングの連続だった。ある日、運動員が進駐軍に呼ばれて叱責を受ける。

 ▼進駐軍の夫人を運動に動員してはならない、というのだ。調べてみると、順造を応援している東奥義塾OBの奥さんだと分かった。白系ロシア人だから間違えられたのだ。夫婦の息子が、二十数年後に甲子園を大いにわかせる三沢高校の太田幸司投手である。

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