主張

敬老の日 尊厳を忘れぬ言葉遣いで

 「おじいちゃん、どっちに行きたいの」「名前呼ばれるまでちゃんと待てる?」「やればできるじゃないの」-。街角や電車内、病院などで、お年寄りに対するこのような言葉遣いを耳にしたことはないだろうか。

 家族や旧知など気心の通じた仲なら親近感があって好ましい場合もあろうが、相手構わず高齢者を目下か子供のように扱う物言いは、悪意がなくても、いや、たとえ好意からであったとしても、高齢者の自尊心を傷つけることがある。

 高齢者と接する機会の多い病院や介護施設などでは、とくに注意が必要だろう。施設に入所した人が、自らの年齢の半分にも満たないような若い職員から幼児言葉で話しかけられたことで心を閉ざし、長らく施設になじめなかったといった例も見聞きする。

 日本看護倫理学会は看護職向けのガイドラインで、高齢者の尊厳を守り、高めるための行動として「理由なしに高齢者をちゃんづけや愛称で呼ばず、その人の名前を呼ぶ」ことなどを提唱している。距離感を縮める目的でのくだけた言葉遣いも、度を越せばなれなれしく不快な印象を与えよう。

 高齢者は一般的に社会的弱者と位置づけられることが多い。確かに現役世代に比べ身体能力や所得などで不利な立場にあるのは否めない。その意味では高齢者を弱者としていたわり、保護していく社会の仕組みは重要である。

 ただ忘れたくないのは、高齢者を大切にするのは彼らが弱者だからではなく、豊かな経験と知恵を培ってきた人生の先輩だからであるとの視点だ。高齢者の中には、これまで家族を支え、日本の復興と成長にも貢献してきたと自負する人が少なくない。

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