■震災避難者いじめ問題で機能せず
4期14年にわたり横浜市の教育委員・委員長を務め、今春退任した今田忠彦氏(73)が、産経新聞の取材に応じた。改めてこれまでの取り組みを振り返るとともに、東日本大震災による東京電力福島第1原発事故避難者のいじめ問題や、中学の歴史・公民教科書に育鵬社の教科書を採択した際の思い、今後の教育体制への提言などについて聞いた。(那須慎一)
今田氏は、市総務局長を経て、平成15年から教育委員を務め、27年の改正地方教育行政法施行で教育委員長と教育長が一本化されるまで、8年8カ月にわたり委員長職を務めた。
--14年の長きにわたり教育委員を務められ、改めてどのような感想をお持ちか
「ありがたい職を得たということに尽きる。就任時、名誉職的な教育委員にはなるまいと心に決め、気持ちを切らさないようにした。直接、学校も回ったが、回れば回るほど、教師力の向上が大きな課題になっていることが浮き彫りになった。このため、自分で『現場の第一線で活躍する皆さんへ』というレジュメを作り、合わせて50校くらい自ら足を運んだ。『人として、組織人としてどう生きるのか』という優れた先人の言葉を引用しながら、自分の役所での長年の経験もふまえて話をしてきた。毎日、学校現場で目の前で起こることへの対処に追われて、一日が終わっている教師が多いが、本当に教師に向いているのか、人として生きる上で何が必要か、自分の顔を作っていくことが大切だといったことを中心に話した。多少は先生たちの気づきにつながったのではないか」
--方面別学校教育事務所の開設にも奔走された
「市内には小・中学校、合わせて500校近くがある一方で、対応する市教委の窓口が『関内』だけで精神的・物理的に距離感がありすぎる。企業ならば、当然支社や営業所があるべきという発想から方面別学校教育事務所開設を具体化することにしたが、『管理強化につながる』など、当初は横浜市教職員組合などの反対があった。しかも市教委の組織なので、予算がかかることで行革に逆行する流れでもあったため、相当な意気込みで当時の中田宏市長とともに取り組み、林文子市長に引き継がれた。ガバナンス面でみると横浜は長い歴史があるため、校長会が力を持ちすぎる傾向にあるのではないか。今回、震災避難者のいじめの問題であまり方面別事務所が機能しなかったのは、こうした背景もあるのかもしれない。もう一度、方面別事務所の重要性の議論が十分だったかを検証する必要があるだろう」
--震災避難者いじめ問題をどう振り返る
「最初からセンセーショナルに伝えられ、落ち着いた議論がなかなかしにくかったと感じている。ただ、被害者の両親を弁護士のもとに駆け込ませたのは大変情けない話で、『今日行くのが教育』という意味で『TODAY GO』を徹底することが重要。スピード感と子供への情熱が大切だ。それが保護者との信頼関係を強固にしていく。被害者も加害者といわれる子供たちも等しく対応していくのが教育だが、情報がなかなか見えず、時間がたち、全体像も見えない中で岡田優子教育長も苦労した」
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【プロフィル】今田忠彦
いまだ・ただひこ 昭和18年生まれの73歳。東北大学法学部卒。44年7月に横浜市入庁。中田宏前市長在任中の平成15年4月に教育委員に就任。18年7月、教育委員長に就任(27年3月まで)。委員長在任中の21年8月、市内8区の中学校歴史教科書に自由社を採択(他の委員とともに)。22年4月の方面別学校教育事務所開設に尽力。23年8月、中学歴史・公民教科書に育鵬社を採択(同)。29年4月1日、14年務めた教育委員を退任。