付き添った母親の慶子さん(46)も「小学校低学年までは抱っこして海に入っていたが、最近は来られなかった。娘がうれしそうで連れてきてよかった」と喜んだ。
「目の前のバリアを乗り越える体験が、障害者の自信につながり、よりアクティブになれる。障害者が外に出ることで健常者との接点が増え、バリアフリーへの理解も深まっていく」
須磨ユニバーサルビーチプロジェクトの木戸さんはマットを導入した意義をこう強調した。
豪州で出合ったビーチマット
平成27年4月、木戸さんは東京都内の路上で交通事故に遭った。意識不明の重体で病院に搬送されたが、脊髄損傷などで医師から「一生、歩くことはできない」と告げられた。
激しく落ち込んだが、その後も献身的な看病を続けてくれた母親や妻の姿に奮い立った。リハビリを始めてから半年後には車いすの操作のほか、食事や着替えなどは1人でこなせるまでになった。
「再び歩きたい」という思いが募った。リハビリ医療が発達し、車いすでも日常生活が送りやすい豪州にリハビリ留学した。そのときに出合ったのがビーチマットだった。
場所は人気観光地として知られるゴールドコースト。遊歩道から海を眺めていた際、ビーチの真ん中に海辺まで一直線に敷かれたマットを見かけた。車いすで行けると知り、健常者と一緒にビーチで日光浴や水遊びを楽しんだという。
「海は眺めるもの」とあきらめていたが、マット一つで乗り越えられたことに感動した。そして、同時にこう思った。「同じような思いを抱えている障害者がいるはず」と。