正論

今の日本にもっとも欠けている「考える」ことを取り戻すには 埼玉大学名誉教授・長谷川三千子

埼玉大学名誉教授の長谷川三千子氏(瀧誠四郎撮影)
埼玉大学名誉教授の長谷川三千子氏(瀧誠四郎撮影)

 「日本人は学ぶよりも考えよう」-7月26日付本欄の古田博司氏のこの提言に深い共感を覚えたのは、私一人ではなかったでしょう。今の日本にもっとも欠けているものを一つだけ挙げるとすれば、それは「考える」ということだ、と言って間違いありません。

 ≪感情論ばかり幅を利かせる昨今≫

 古田氏がご指摘のとおり、「考える」ことが専門の学者の世界においてすら「学びて思わざればすなわち罔(くら)し」と言いたくなるような論文に、お目にかかります。

 他方で「思いて学ばざればすなわち殆(あやう)し」といった論も、世の中にはたくさん出回っている。学ぶことと考えることとの調和を保って知を深めるというのは、なかなか難しいことであって、だからこそ孔子もこのような言葉を残したのだと思われます。

 ただし、本来学ぶことと考えることとは相反するものではありません。どちらも、さまざまのものごとを事柄そのものに即して見極めるということを基本としている。ですから、その基本を忘れない限り、両者は互いにうまく補いあってゆくことができるのです。

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