種蒔く人々

宮崎県諸塚村企画課長・矢房孝広さん(2)「村で育った」木で家づくり

【種蒔く人々】宮崎県諸塚村企画課長・矢房孝広さん(2)「村で育った」木で家づくり
【種蒔く人々】宮崎県諸塚村企画課長・矢房孝広さん(2)「村で育った」木で家づくり
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 前回も記述しましたが、諸塚村は平成16年に「FSC(R)森林認証」を取得しました。FSC(森林管理協議会)は、リオ地球サミットの翌年(平成5年)に設立されています。森林経営を環境共生や持続可能性、経営の健全性など10原則と56の基準で審査し、それに合致した森林のみが認定される世界的な認証制度です。諸塚村の取得は、九州で初めて。自治体ぐるみでは日本初でした。

 「認証を取ると、材価が上がるのか」

 よくこう質問されますが、認証取得は手段であって、目的ではありません。材木の値段は、顧客の評価により左右されます。顧客が評価する価値を生み出し、その基準をクリアするためには、より顧客に寄り添う必要があります。

 これまで日本の農林業界は、農協を代表とする系統出荷に頼りすぎでした。このため、農家や林業家は「顧客は流通(市場、組合系統など)」と誤解しています。そのため生産と流通戦略を見誤り、市場相場だけが物差しになりがちです。

 本来の顧客は、ユーザーである住まい手や食卓の消費者です。それを思い出さなければなりません。

 林業の村、諸塚村のつくる商品の価値は何か。私たちはまず、森林を守る「環境共生のむらづくり」に共感する顧客づくりに着手しました。その柱のひとつが9年から取り組む「産直住宅事業」です。諸塚村は、日本有数の木材産地なのですが、林業家は厳しい労働と、半世紀を超える時間、手塩にかけて育てた木材を、ただ市場に出すことに追われてきました。市場価格にだけ一喜一憂していました。

 産直住宅事業は、全く違います。都市にある設計事務所や工務店とネットワークを結んで、諸塚の木材を街に運び、都市と山村が連携した本物の「木の家づくり」をするのです。貴重な木材を厳選し、住まい手に直接届けるシステムなので、顧客の必要なものをつくる、生産者の本来の姿を取り戻すことができました。顧客志向の回復です。

 その過程で、環境に優しい木材を担保するため、第3者認証である森林認証を取得することになりました。

 通常は難しい木材製品のトレーサビリティー(生産履歴の管理)が森林認証によって確立されました。「諸塚村で育った木」の家は、28年度末で400棟を超えました。単に木材という素材を売るのではなく、森林資源の持つ文化や、それを生かす人の情報という付加価値を顧客が評価する流通が生まれたのです。

 ここ数年、環境負荷に配慮したグリーン経済が注目されています。森林資源や水、空気などの自然環境を企業の経営基盤を支える重要な「自然資本」として捉え、その持続可能な調達のため、環境負荷に配慮した企業活動を必須とする考えです。CSV(企業の社会的価値の創造)の具体策として、森林保全への支援も始まっています。

 必然的に山側は森林を適正に管理し、その内容をユーザーに明示する努力義務が生じます。そのユーザーへの説明責任を果たすシステムが森林認証制度なのです。2020年の東京オリンピックの関連施設の木材は、ロンドン、北京の両五輪に続いて森林認証木材が義務付けられています。欧米では多くの木製品が認証材となっていますが、実はアジアでも、すでにFSCが当然となっています。

 日本は人口減、空き住宅の増加などもあり、東京五輪以降は、住宅着工戸数がピーク時の3分の1まで減少する可能性もあります。経済は決して楽観できる状況ではありませんが、日本の社会も商品を環境ラベルで選ぶべき時代が、すぐ近くまで来ているのは間違いないと思います。

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【プロフィル】矢房孝広

 やぶさ・たかひろ 宮崎県諸塚村企画課長兼地方創生担当課長。昭和37年諸塚村生まれ。九州大学建築学科卒業後、東京などで建築設計事務所に勤務。平成7年、諸塚村役場入庁。産直住宅プロジェクト、観光活性化事業、日本初の村ぐるみのFSC森林認証取得などに携わる。27年から現職。一級建築士で森林インストラクター。