1906(明治39)年に岡倉天心が英語で著した「茶の本」を、著者自らが邦訳し、解説している。著者は大日本茶道学会の会長、今の日本を代表する茶人の一人。「茶の本」を自らの古典として向き合い、約40年がたつという。
日本人の美意識を西洋に啓蒙(けいもう)したといわれる「茶の本」には、これまで幾通りもの翻訳や解説が試みられてきた。が、難解さゆえに真意が汲(く)みつくされることなく、今も私たちを惹(ひ)きつけてやまない。
「茶の本」を読解するには、天心独特の英語での仄(ぼの)めかしやレトリックの意味を理解するだけでなく、当時の西洋人が東洋人をどう思っていたか、それに対し天心は何をどう説得しようとしたのか、芸術思潮はもとより、日露戦争直後から第一次世界大戦へという時代背景も含めて考慮に入れねばならない。
本書では「茶の本」の最終章に描かれている千利休の自刃から逆に遡(さかのぼ)る手法がとられており、なぜ利休は自刃したのかを念頭に置きつつ、天心の精神世界に深く分け入る。
読み進めるうちに、「茶の本」は途方もなく大きな骨格であることに気がつく。著者はそこに豊富に肉づけし、いきいきと血管を通して、縦横無尽に解き明かす。