浪速風

蓮池、蜘蛛の糸、芥川賞

沼田真佑さん
沼田真佑さん

豊中市の服部緑地にある池で、蓮の花が満開である。梅雨明けの強い日差しできらめく水面に、大きな葉がゆったり浮かび、薄いピンクの花びらが美しい。なるほど極楽浄土はこんな光景かと想像する。芥川龍之介の児童向けの短編「蜘蛛(くも)の糸」を思い出した。

▶蓮池の淵を歩いていたお釈迦様が、水中の地獄でうごめく罪人の中に、蜘蛛を踏みつぶさずに助けた男を見つけ、救い出してやろうと蜘蛛の糸を垂らす。男は糸をたぐって登り始めたが、他の罪人たちもついてくる。「この糸はおれのものだぞ。下りろ、下りろ」。わめいた途端、糸はぷつりと切れてしまう。

▶自分だけが地獄から抜け出そうとする浅ましさ。人間の業(ごう)を描いた芥川の名を冠した芥川賞に、沼田真佑(しんすけ)さんが選ばれた。男同士の友情に東日本大震災が影を落とす「影裏(えいり)」はデビュー作で、受賞のコメントがいい。「ジーパンを1本しか持っていないのに『ベストジーニスト賞』をとったようなもの」