関係者と過日行った北朝鮮のわが国に対する核ミサイル攻撃のシミュレーションは途中で早めの休憩に入った。「部屋の空気が一瞬滞留した」ように感じたほど、参加者が受けた衝撃があまりに強かったためだ。小生も事態の深刻さに、少し気持ちが悪くなった。
現在、日本に襲来する敵弾道ミサイルを迎え撃つ切り札は、海上自衛隊のイージス艦搭載迎撃ミサイル《SM3》と航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット《PAC3》の2段構え。シミュレーションは、次のシナリオで始まった
《高度500キロの宇宙空間=洋上で迎撃するSM3が、北朝鮮の核ミサイルを撃ち漏らした。従って、大都市圏などに配備され、高度15キロで迎撃するPAC3が撃ち落とさなければならない最終局面を迎えた》
SM3の撃ち漏らしは、おびただしい数のミサイルが一度に向かってくる《飽和攻撃》など複数考えられたが、いつもなら問題提起される課題は今次シミュレーションでは分析対象外となった。ともあれ、シミュレーションでは、より根源的課題でありながら「定説」を信じ切っていた危機管理上の甘さが、残酷なほど鋭利に突き付けられた。
PAC3迎撃に成功すると、参加者は「皆」、安堵の表情を浮かべた。否。「皆」ではなかった。A氏が言った。
「核爆発は起きないのか?」
B氏が言い切った。
「起きない」
核弾頭の起爆装置は通常、幾重にも掛けられた安全装置でロックされ、迎撃の衝撃を受けても、装置の働きで核爆発が起きないとされている。それ故、B氏の答えは「定説」に沿っていた。
A氏はたたみ掛けた。