ウワサの現場

「世界の村上春樹」が語った翻訳の哲学 あの名ゼリフ「タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きている資格がない」は超訳? 誤訳?

【ウワサの現場】「世界の村上春樹」が語った翻訳の哲学 あの名ゼリフ「タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きている資格がない」は超訳? 誤訳?
【ウワサの現場】「世界の村上春樹」が語った翻訳の哲学 あの名ゼリフ「タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きている資格がない」は超訳? 誤訳?
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 スコット・フィッツジェラルド、トルーマン・カポーティ、レイモンド・チャンドラー…。作家の村上春樹さん(68)が手がけた翻訳作品によって、アメリカ文学の魅力に開眼した人は少なくないはずだ。3月に刊行された村上さんの新刊「村上春樹 翻訳(ほとんど)全仕事」(中央公論新社・1500円+税)はタイトル通り、村上さんが自らの36年に及ぶ「翻訳家」としての歩みを振り返った一冊。と同時に、世界的人気作家の言葉への向き合い方、さらには「翻訳家・村上春樹」の登場が、日本でのアメリカ文学の出版事情にどんな変化をもたらしたかも教えてくれる。4月下旬、この本の出版を記念して東京都内で行われたトークイベント「本当の翻訳の話をしよう」での村上さん自身の発言を交えながら、奥深い言葉と翻訳の世界を紹介したい。

デビューから2年で

 「村上春樹 翻訳(ほとんど)全仕事」の発行部数は現在2刷2万8000部。2月に刊行され、2巻で計130万部を超すベストセラーとなっている村上さんの最新長編「騎士団長殺し」(新潮社)に比べれば売れ方はおとなしい。

 だが、この出版不況下で、しかもマイナージャンルである翻訳小説をめぐる本でこれだけの部数を刷るのは、そんなにあることではない。「村上ブランド」の力は、やはり大きいのかもしれない。

 村上さんが群像新人賞受賞作「風の歌を聴け」で作家デビューを飾ったのは1979(昭和54)年。そのわずか2年後の81年には初の翻訳書となる、米作家フィッツジェラルドの作品集「マイ・ロスト・シティー」(中央公論社)を出している。

 以降、レイモンド・カーヴァー全集、カポーティの「ティファニーで朝食を」、J・D・サリンジャーの「キャッチャー・イン・ザ・ライ」などのアメリカ文学を中心に、36年間で手がけた訳書は約70冊。

 村上さんは「村上春樹 翻訳(ほとんど)全仕事」の中で、それぞれの作品を翻訳するに至った経緯や当時の心境、作品の美点などについて簡潔で愛にあふれる文章を添えている。