産経抄

仙台の中2自殺、救いの手をさしのべる大人はいなかったのか 5月23日

 国の特別天然記念物コウノトリの雄はイクメンである。つがいにヒナが生まれると、雌と協力して面倒をみる。島根県雲南市で先週、雌の親鳥が、ハンターにサギと間違われて射殺された。その後も雄が、残された4羽のヒナにエサを与えていた。

 ▼ただ雄が巣を空けている間に、外敵に襲われる危険がある。ヒナは保護され、兵庫県立コウノトリの郷公園で人工飼育されることになった。このニュースを聞いて、読み終えたばかりの小説『めぐみ園の夏』(新潮社)の一場面を思い出した。

 ▼両親に見捨てられた11歳の亮平は、昭和25年の夏、児童養護施設に預けられる。天国のような所と聞かされていたが、一晩でシラミをうつされた。園長のセクハラから理事長の息子の暴力、学校でのいじめまで、多くの艱難(かんなん)も待ち受けていた。

 ▼幸い亮平は、援軍に恵まれた。保母や作業員の若者は、親身に相談にのってくれ、前の学校の担任の先生は、亮平の将来のために奔走する。経済小説作家、高杉良さんによる初めての自伝小説である。書き進めるうちに、60年以上も前にピンチを救ってくれた大人たちの名前と姿が、鮮明に甦(よみがえ)ってきたという。

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