浪速風

値上げで遠ざかる「はがき」の温もり

向田邦子さんの「字のない葉書」は、戦時中、学童疎開する小学1年の妹に、父が自分宛てのはがきをたくさん持たせる。まだ字が書けないので、「元気な日はマルを書いて、毎日一枚ずつポストに入れなさい」。初めて届いたはがきは、紙いっぱいはみ出すほどの、赤鉛筆の大マルだった。

▶ところが、次の日からマルは急激に小さくなり、ついにはバツに変わり、まもなくバツのはがきも来なくなった。父の心配はいかばかりであったろう。疎開先から帰った妹を、父は裸足(はだし)で飛び出して肩を抱き、声を上げて泣いた。中学の国語の教科書にも載ったこの作品を読むたびに、胸がつまる。

▶来月からはがきが値上げされる。約23年ぶりで、52円から62円への大幅アップだが、さほど騒がれないのは、利用者が減っているからだろう。電子メールは便利だが、事務的で無味乾燥に思える。アナログなはがきには温(ぬく)もりがある。それにサイバー攻撃に悪用されることもない。