正論

核兵器放棄の期待は非現実的だ 日本は核兵器以外の手段による「相互確証破壊」で対抗せよ 東京国際大学教授・村井友秀

 すなわち、核兵器は貧乏国にとって魅力的な兵器である。中国も貧しかった時代、通常兵器を近代化する経済的余裕がなく、安価な核兵器とただ同然と見なしていた人民の命を大量消費する人民戦争によって米軍に対抗しようとした。

 1963年、中国政府は「たとえズボンを穿かなくても核兵器を作る。米帝国主義の核恫喝(どうかつ)の前で土下座することはない」(陳毅外交部長)と主張した。65年、パキスタンも「インドが核兵器を持てば、国家の名誉を守るためにわれわれは草や葉を食べても核兵器を持つ」(ブット人民党党首)と述べている。北朝鮮も「米国が制裁ごときで民族の命であり国の宝であるわれわれの核抑止力を奪えると思うのなら、それ以上の妄想はない」と言っている。

 現代世界では国家が最高の権力を持っており、これらの国家に核兵器を放棄するように命令できる機関は存在しない。したがって、これからも核武装を図る国家は現れるだろう。他方、「米国は通常兵器の分野で圧倒的に優位な立場に立っている。したがって、核兵器を全廃し、通常兵器のみが存在する世界になれば米国の優位は万全になる」という意見も米軍の中に存在する。

≪恐怖が支えた冷戦の「平和」≫

 さらに核兵器には飽和点がある。核兵器の破壊力は巨大であり、敵国の中枢を破壊できる核兵器があればそれ以上の破壊力は不必要になる(飽和点)。しかし通常兵器は破壊力が小さく、戦争に勝つには常により大きな破壊力を追求しなければならない。通常兵器の近代化競争には限度がない。

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