川沿いの土手を駅へ急いでいると、横合いから小さな男の子の声がした。「お母さん、風が黄色だよ」。「ほんとだね、黄色だね」と母親の声もはずんでいる。見れば一面の緑に点々と、黄色い野花が咲いていた。
▼先日、通勤途中で目にした一こまである。なるほど。風が渡る度、花がみな同じ方角に相づちを打っている。風に色があることを教えたのは母親だろう。「黄色だよ」は男の子の中に育った感性の花か。母親の顔は、一生分の宝を手にしたような笑みで崩れていた。
▼子は3歳までに親孝行を済ませるとか。だからというわけではないが、「母の日」に何かを贈る側と贈られる側では意識のすれ違いがある。日本生命の調査では、贈り物の予算は「3千円〜5千円」が主流で、贈られる側が期待する平均額を1千円以上も上回った。
▼このすれ違いは笑い話で済むとして、親の本音がにじむ項目もある。贈り物に「手紙・メール・絵」と答えたのは、贈る側の0・9%に対して贈られる側は14・2%だった。お金であがなえない何かを、親は待っている。日頃の無沙汰に冷や汗をかく人も多かろう。