強度のストレスが原因となって起こるPTSD(心的外傷後ストレス障害)。そのメカニズムを解き明かすために、過酷な環境で暮らす兵士たちにできることがあると元軍人の著者は語る。戦場で行われるストレスの研究は、現代に生きるすべての人の治療に役立つ可能性がある。
いまから20年前のことだ。ワシントン州ケントの薄暗い通りでケンカをするために、10代の若者たちが群がる輪の中に入った。そのとき、男がわたしの目をえぐり出そうとして親指をまぶたに置いたときからそれは始まった。彼がわたしの耳を噛んだとき、アドレナリンが血管にあふれ出して痛みにふたをした。ケンカが終わるまで、わたしは自分の耳がなくなったことにも気づいていなかった。胸が痛くなるほど心臓の鼓動が高まり、視界は狭まり、吐き気がした。
差し迫った危険に直面し、複数の脳の分野が連動して働く。ストレスホルモンであるアドレナリンを放出し、心臓と呼吸のスピードを速め、コルチゾールはその時に必要でなかった体のシステムを抑制した。危機を克服するか、逃げるか、どちらかの可能性を大きくするために体が進化して獲得したサヴァイヴァルメカニズム--闘争・逃走反応である。
ケンカの代償として左耳を失ったが、あの晩にもった感情を決して忘れることはない。そしてある意味では、その感情は役に立ってきたのである。