春の叙勲・旭日双光章 「武術立身流保持者」加藤紘さん(72)

 ■伝統の重みかみしめ日々鍛錬

 室町時代の武将、立身三京が起こした古武道の流派「立身流(たつみりゅう)」の第22代宗家で、伝承者として文化財保護の功績が認められた。「私個人だけでなく、古武道界にとっても名誉なこと」と、受章を素直に喜ぶ。

 立身流は刀術(居合、剣道)を主体とするが、柔術や槍(やり)なども使う実践的な総合武術。江戸時代に譜代大名で幕府の要職を務めた佐倉堀田藩が、藩士の武芸として重視した。

 堀田氏が藩士教育の中心に位置づけたため「千葉の武術」とも言われ、県の無形文化財にも指定されている。県剣道連盟居合道部長の岸本千尋氏も「盛んに引き継いでいってもらわなければならない流派」と期待を寄せる。門人は約300人で、最近は外国人も増えているという。

 子供のころから稽古をしてきたが、伝統の重みを感じ初めたのは大学生のころ。先代の父の門下で流門の皆伝師範らに鍛えられるうちに自覚が芽生えた。「立身流の将来を担うという重みを感じました」と振り返る。

 実践的な総合武術であるとともに、精神修養も両輪の一つ。死を考察し、翻って生を模索し、ひいては社会や人間関係のあるべき姿を求道する-。心技の鍛錬で先人が積み重ねてきた成果が、全15巻あるという正伝書や関連古文書に記録されている。そうした伝書が完全に残る流派も珍しいとされ、連綿と練り上げられてきた伝統を引き継ぐ重みをかみしめる。

 弁護士でもあり、多忙な日々を過ごす中でも、毎朝、伝書などに書かれた教えに近づこうと自宅で刀を抜くという。「弁護士の仕事も古武道も、専門家という点では共通点があると思います」

 武術としての動きの中に、美しさがにじみ出てくるような動きでなければならない。かといって古武道は見せ物ではないので、殺陣のようなことをやっていては武道からそれてしまう。理解したようで、また新しい世界が現れる。立身流の神髄を頭のみならず体で習得することはできるだろうか。「鍛錬は道半ばどころではない」とも。

 「500年にわたり引き継いできた先師のおかげ」と感謝の気持ちが強いとしつつ、先師たちの研究をどう理解するか、四苦八苦の状況が続いているという。「自分の考えを打ち出すなどということは、とてもたどり着けません」。探求の気持ちは衰えることを知らない。(飯村文紀)

会員限定記事会員サービス詳細