栃木県那須町の雪崩事故で、教員で唯一犠牲となった県立大田原高教諭、毛塚優甫(ゆうすけ)さん(29)は県立高の非常勤講師を経て3回目の受験で教員採用試験に合格。昨春、大田原高に着任していた。発生1カ月を前に、優甫さんの父、辰幸さん(65)と母、愛子さん(59)は「本当に悔しい。この苦しみが一生続くのかな」と心境を語った。
事故発生当日の3月27日、両親が病院に到着すると、優甫さんは人工呼吸器を付け、心臓マッサージを受けていた。体は既に冷たかった。「これからでしょ、これからでしょ。やっと念願かなって先生になったのに」。愛子さんはこう呼びかけ、体を温めようと必死にさすったという。
何度もチャレンジした教員採用試験に合格した優甫さんが「ほっとした」と、はにかんだことを今も覚えている。大田原高では勉強でつまずいた生徒に積極的に声を掛け、様子をうかがっていたという。「自分も順調じゃなかったから子供の気持ちが分かるのだと思う」と愛子さんは言う。
部活は剣道部と山岳部の顧問を任された。剣道は学生時代から続けていたが、登山は初心者。辰幸さんには「山岳部は自分に合わない」と漏らしていた。「優甫は真面目で優しいから断れなかったんだと思う」。この春から担任を持ち、部活動も剣道部の顧問に専念する予定だったことは、亡くなった後に知らされた。