鑑賞眼

劇団民芸「送り火」 透明感あふれる美しい世界

70年ぶりに戻ってきた兄(塩田泰久、左)と再会した照(日色ともゑ)
70年ぶりに戻ってきた兄(塩田泰久、左)と再会した照(日色ともゑ)

老いという厳しい現実も、亡き家族と再会が果たせるなら、ファンタジーになりうる。そんな風化しつつある家族の記憶を、盂蘭盆(うらぼん)の最終日にたく送り火で蘇(よみがえ)らせるナガイヒデミの新作。ナガイは京都在住で、民芸初登場。演出は兒玉庸策。

四国山間の集落で70年以上、旧家を守ってきた照(日色ともゑ)。両親も兄も今は亡く、1人暮らしを続けてきたが、衰えを自覚し施設入所を決める。物語はその入所前日を描く。

最後の1日に、本家の姉(船坂博子)や幼なじみ(仙北谷和子)が訪れ、その会話から照の兄の徴兵逃れと、それに起因する一家の厳しい歴史が浮き彫りになる。兄のため集落で後ろ指を指され、結婚もままならなかった照は現在、認知症で記憶に混濁が生じている。照が一人たく送り火に誘われるように、亡き兄(塩田泰久)が登場。照は一瞬にして妹に戻る。

薄暗い旧家の板の間に、70年前の家族の時間が蘇るのが切ない。父母の思い出、赤紙の恐ろしさ…。兄妹は胸に秘めていたわだかまりも吐き出し、恩讐(おんしゅう)を超え、語り合う。それは認知症による妄想かもしれないが、厳しい老いを扱いながら、虚実入り交じった幻想的な世界が愛媛弁に彩られ、自然に共存する。

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