北京という街は、まさに「スパイ狩り」の天国となり、普通の外国人や中国人にとって恐怖の地獄と化していくであろう。誰でもいつでもどこでも、「スパイ通報乱発」の餌食にされてしまう危険性があるからである。
無実の人が嘘の通報の対象にされ、そのまま冤罪(えんざい)をかぶせられたら一巻の終わりだが、後になって疑いが晴れたとしても、当局の取り調べを受けただけで、現地での仕事と生活に大きな支障が生じてくるのは間違いない。
それでは、日本人を含めた外国人たちは一体どう対処すべきか。
おそらく唯一にして最善の対処法はできるだけ中国に、最低限、北京には近づかないことであろう。
少なくとも私自身、前述の反スパイ法が制定されて以降、かの国の地に一切足を踏み入れないことを決めている。
「危邦に入らず」というのは、他ならぬ中国最大の聖人である孔子様からの大事な教えだったのである。
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【プロフィル】石平
せき・へい 1962年中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍を取得。