銀幕裏の声

水戸黄門は死なず-少ない製作費でこの奥行き感、映像の美しさ…時代劇復権に懸ける京都映画人の魂

 「私が助監督をしていた東野さんの初代黄門時代、里見さんが助さんを演じていた頃からの付き合い。自主製作の話をしたら、里見さんは自ら出演を申し出てくれたんです」と井上監督は明かす。

時代劇の灯を消すな!

 少しネタばらしになるが映画は全編モノクロ。だが、ラストでカラーに切り替わる。

 「モノクロ独特の奥行き感を重視して撮りましたが、ラストカットのカラー映像の美しさも堪能してほしい。時代劇ならではの撮影手法だと思いますから」。こう説明するのは撮影監督を務めた倉田修次さん。井上監督とは互いに京都造形芸大の時代劇ゼミの指導者として知り合い意気投合。井上監督の自主製作の意気込みを聞き、撮影監督を買って出た。

 「確かに時代劇は製作資金がかかるが、工夫次第でそれを抑えることは可能。モノクロ撮影もその一つ。一方で、奥行きの描写や古い歴史の表現など製作資金が少ないからこそできる自主製作ならではの良さもある。短所を利点に変えることができるのです」と倉田さんは言う。

 日本を代表する時代劇のベテラン俳優、里見さんの友情出演。大学指導者時代の同僚、倉田カメラマンとのタッグ。井上組の照明、美術スタッフの全面協力。さらに演技指導した教え子たちキャスト陣…。時代劇の現場で長年培ってきた井上監督ならではの経験とネットワークで築きあげた独自の自主製作体制が、新時代の本格時代劇の可能性を広げつつある。

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