産経抄

4月16日

 人の世には404種の病があるとされ、恋煩いを指して俗に「四百四病の外(ほか)」という。わが子に寄せる情愛もしかし、恋に劣らぬ煩いを強いて、親の胸を締め付ける甘美な病だろう。〈かくばかり偽り多き世の中に子の可愛さは真(まこと)なりけり〉の歌は落語のまくらとしてなじみ深い。

 ▼処刑を控えた吉田松陰も、先立つ不孝を辞世でわびている。〈親思ふこゝろにまさる親こゝろけふの音づれ何ときくらん〉。江戸幕府の弾圧に膝を折らなかった硬骨の人が、深々と頭を垂れている。子を思い煩う情愛を前にすれば、どんな理屈も色あせるほかない。

 ▼容疑者も、〈子の可愛さは…〉の親心を分からぬ立場ではあるまい。千葉県松戸市の9歳女児が無残に遺棄された事件は、言葉を失う顛末(てんまつ)となった。逮捕されたのは、女児が通う小学校の保護者会の会長(46)だった。聞けば容疑者も、2人の子供を持つ親だという。

 ▼通学路では見守り活動の先頭に立ち、児童が慣れ親しむ顔だった。心許せる親同然の存在だろう。紙面には「(娘を)守りたくても守れない」と父親の痛憤が載っていた。〈偽り多き世〉の大人が「見守り」を装っていたなら、同じ大人として怒りを禁じ得ない。

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