【世界を読む】240人の惨殺遺体、メキシコ「麻薬戦争」の現実…世界最凶の麻薬カルテルが跋扈した地帯

 ここ10年ほどで、死者は20万人以上、行方不明者は約3万人に上るという。中米メキシコで続いている「麻薬戦争」による犠牲者の数だ。「カルテル」と呼ばれる麻薬組織同士の抗争、それを制圧しようとするメキシコ当局や軍、さらには米国の麻薬取締局(DEA)などが入り乱れた戦争は終わりが見通せず、抗争に絡んだ誘拐や殺人が常態化している。犠牲者の中には一般人も多く、3月上旬には、メキシコ東部ベラクルス州の農場から240人以上の男女の殺害遺体が見つかった。抗争に巻き込まれたとみられる遺体は10代から20代とみられ、極めてむごたらしい状態だったという。

9割近い企業が「治安に不安」

 メキシコのメディアやAFP通信などによると、240人以上の遺体が見つかった農場では、掘られた無数の穴に遺体が埋められていたという。遺体は手厚く埋葬されていたわけではない。掘り起こされたのは、大量の頭蓋骨や、首を切断されたり、四肢を切断されたりした遺体だった。

 現場となったベラクルス州は、メキシコ湾西岸に位置する。メキシコ国立統計地理情報院(INEGI)が、犯罪が企業活動に与える影響に関する調査結果を発表(在メキシコ日本大使館のホームページに掲載)したところによると、同州は「治安情勢に不安がある」と回答した企業の割合が88・9%と、メキシコ全31州と1連邦区で3番目に高かった。

 麻薬カルテルにとって、最大の市場である米国への密輸を図る上で、国境地帯や湾岸部は重要な拠点となる。このため、カルテル同士のこうした重要拠点の覇権をめぐる争いは激化しやすく、ベラクルス州も最も激しい抗争が繰り広げられている地帯のひとつだとされている。

残虐すぎるカルテル

 ベラクルス州での抗争が激しい理由には、「ロス・セタス」と「ハリスコ・ヌエバ・へネラシオン」という二つの麻薬カルテルによる勢力争いがあるためだとの見方がある。特にロス・セタスは、米政府が「世界で最も危険な麻薬カルテル」と呼ぶほどで、軍の元特殊部隊員らで結成され、あまりにも無慈悲な残虐性で勢力を拡大してきた組織である。

 その残虐性は常軌を逸しており、敵や民衆をただただ殺害していく。それも拷問を加え、首や四肢を切断、その映像をインターネット上に流す。ひたすら恐怖を与え続けるのだ。

 ロス・セタスの登場で、他の麻薬カルテルも準軍事組織のような部隊をつくるようになり、武装強化された抗争は激しさを増したともいわれている。

 今年1月に米国に移送された「麻薬王」のホアキン・グスマン受刑者(59)が率いるメキシコ最大級の麻薬組織「シナロア・カルテル」とも凄惨な抗争を繰り広げたことでも知られる。

不明者家族らの執念

 冒頭に書いたように、終わらない「麻薬戦争」に付随する事件に巻き込まれ、行方不明になった人々は多い。ベラクルス州で240人以上の遺体発見につながったのは、そうした行方不明者の家族らによる団体「エル・ソレシート」の活動による。

 現地メディアなどによると、この団体は、活動資金を集め、遺体を探すために地面を掘削する機材を調達し、掘削技術も身につけ、掘り起こし作業を地道に続けていた。そして、昨年8月、現場から最初の遺体を見つけたのだ。

 メキシコでは南部ゲレロ州イグアラ市で2014年9月26日、デモに向かう途中の教育大学の学生が襲撃され、6人が死亡、43人が失踪した事件が起きている。この事件を指示したのが、同市の市長夫妻だったことも世界を驚かせた。市長夫妻は警察と麻薬カルテルに事件を実行させていたという。後に逮捕された麻薬カルテルのメンバーは学生たちを殺害して焼き、川に棄てたと供述している。

 この事件から29カ月目となる今年2月26日、首都メキシコシティーで事件への抗議デモが行われた。麻薬カルテルと当局との癒着が常に指摘されるメキシコで、「麻薬戦争」が終焉を迎える日はくるのか。麻薬の最大消費地である米国はどこまで介入するのか。

 ロイター通信は、米国務省で麻薬犯罪取締担当のブラウンフィールド次官補が3月2日、米国で流通するヘロインの90%以上などがメキシコ由来とし、封じ込めにはメキシコとの協力が欠かせないと強調した、と伝えた。

 そして、現在のメキシコとの協力関係は「高いレベル」にあるとし、「『壁』を建設しなくても、法執行機関における協力という形で『壁』をこれまで築いてきた」と語ったという。

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