「これから山頂への急峻(きゅうしゅん)な道が続く」。28日、神戸市立医療センター中央市民病院で踏み切られた、他人由来の人工多能性幹細胞(iPS細胞)による目の病気の患者への移植手術。iPS細胞による再生医療の幅広い普及に向けた大きな一歩を踏み出した。理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーは手応えを語った一方、今後の検証の重要さを重ねて強調した。
手術はこの日、午後1時50分すぎから予定通り1時間で無事終了。手術後、同病院で記者会見した高橋氏は「他家移植の1例目がスタートした。(登山に例えれば)5合目くらい」と述べた。同席した同病院の執刀医、栗本康夫眼科部長も「手術が失敗すれば(これまでの積み重ねが)水泡に帰しかねない。特別な緊張感をもって臨んだ」と安堵(あんど)の表情を浮かべた。
ただ今後、5例程度の同様の手術を重ねた上で、最終的に効果の有無を判定する必要がある。臨床研究の行方次第ではiPS細胞を用いた再生医療そのものに影響を与える可能性もある。「ゴールは医師が普通に使える標準医療にすること」という高橋氏。「山頂への急峻な道が続いており、全く気は抜いていない」と表情を引き締めた。
加齢黄斑変性の患者は国内に70万人近くいるとされ、今回の臨床研究に期待を寄せる人は多い。関西に住む患者らでつくる「関西黄斑変性友の会」(大阪市)の星野龍一事務局長は「実用化に向けた第一歩といえる。患者にとって明るい兆しになると感じている」と述べた。同会の代表世話人で、滲出(しんしゅつ)型加齢黄斑変性を患う高田忍さん(75)=兵庫県西宮市=は「実用化されても、費用面や安全性などの課題は残る。過大な期待はせず、早期発見や早期治療を促すことも重要だ」と話した。