浪速風

「やせたソクラテス」という真理

卒業生への告辞として有名なのは、昭和39(1964)年3月28日の東京大学の卒業式での、大河内一男総長の「太ったブタになるよりも、やせたソクラテスになれ」だろう。新聞はこぞって取り上げ、見出しにもなった名文句だが、実は大河内さんは、この一節をしゃべっていないという。

▶事前に配られた演説要旨には入っていたのだが、原稿を読む段になって、つい飛ばしてしまったらしい。「だが記者たちは、てっきり口にされたと思い、このサワリをはずしてなるものかと送稿し、世に喧伝(けんでん)されることになった」。当時、安田講堂で取材した先輩記者が書いている。

▶「事実にそって削るべきだったのか、それとも…」と後々まで悩んだそうだが、誤報とは思わない。エリートだと勘違いするなと、巣立つ学生への戒めが伝わってくる。大河内さんはこの言葉を、19世紀の英国の哲学者ジョン・スチュアート・ミルから引いた。古今東西、真理は変わらない。