産経抄

拉致40年、かの国の犯した罪には怒りをもって臨むほかない 3月26日

 〈花は根に鳥は故巣(ふるす)に〉という。花は咲いた木の根元に散り、その肥やしとなる。空を行き交う鳥もやがては巣に戻る。あらゆる物事は、その元となるところへ帰っていくものだ-と。いにしえの言葉に、ある母親の悲哀に満ちた面差しが重なる。

 ▼〈巣立ちし日浜にはなやぐ乙女らに/帰らぬ吾娘の名を呼びてみむ〉横田早紀江。娘のめぐみさんが消息を絶ち、迎えた何度目かの春という。中学を巣立つ同じ年頃の少女に、わが子の影を母は求めた。北朝鮮による拉致の可能性を小紙などが報じたのは、失踪から約20年後の平成9年2月である。

 ▼その翌月に発足した「家族会」が今年で結成20年を迎えた。小紙連載『拉致40年 家族の慟哭』に胸を痛めた読者も多いだろう。一部の拉致被害者が帰国した14年10月以降、何の進展もみていない。鳥は故巣に-の言葉がむなしい。

 ▼小紙が拉致の存在を初めて報じたのは、昭和55年1月だった。拉致問題が北朝鮮の国家犯罪であることは言うまでもないが、世論の反応は鈍かった。解決を遅らせたのは、世間の無関心であり、政府の及び腰だったことを忘れまい。

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