話の肖像画

米国立衛生研究所感染症部長・満屋裕明(5) 闘いは終わらない

 1つは効果が以前より長く続くタイプで、1週間に1回服用すればいい。もっと長く1カ月、あるいは半年に1回にできる可能性もあります。アフリカなど環境が悪い発展途上国では、薬を服用するのに必要な水を確保することさえ容易ではありません。服用回数を減らすことが治療効果に直結します。

 もう1つはプロテアーゼ阻害剤というタイプで、ウイルスが増殖するのに必要なタンパク質の合成を抑制するものです。こちらは初期の研究を熊本大学で行ったため、コードネームは「KU241」。KUはもちろん熊本を表しています。

 開発中も含め、僕が手掛けた6つのエイズ治療薬のうち、5つは米国発か日米合作ですが、効果が長く続くタイプが成功すれば初の日本発となります。

 〈多様な治療薬の登場で、エイズは死病ではなくコントロールできる慢性疾患になった。しかし、日本の状況については危機感を募らせる〉

 現在のエイズ患者は、ほぼ天寿を全うできるし、二次感染を93%防げるようになったから子供も産める。その結果、アフリカでは新たな感染者がピーク時の半分に、死者も3分の1に減少しました。

 ただ、問題は日本で毎年約1500人の新たな感染者が報告され、患者が増えていることです。自分が感染していると知りたくないとか、人に知られたくないとかを理由に、検査や治療を尻込みする人が多すぎるように思う。そういう人たちにはいいかげんにしてくれ、きちんと現実を見なさいと訴えたい。

 日本では患者1人で年間約250万円の医療費がかかります。40年生きたら1億円です。でも、治療して感染拡大を防げば、貴重な医療資源を節約できる。社会的責任を理解し、ぜひ検査や治療を受けてほしいと願っています。

 僕は命懸けでエイズ治療薬を作ってきました。でも、闘いはまだ終わりません。今は66歳ですが、少なくとも80歳までは研究を続けたい。NIHに定年はありませんから。(聞き手 伊藤壽一郎)=次回はBCリーグ栃木県民球団社長の江部達也さん

会員限定記事会員サービス詳細