正論

トランプ大統領の一撃で温暖化交渉の理想主義は剥落した 京都議定書は日本外交の稀にみる大失敗であった 東京大学客員教授・米本昌平

東京大学客員教授、思想家・米本昌平氏
東京大学客員教授、思想家・米本昌平氏

 トランプ米大統領は、持論の地球温暖化の否定に立って、これまでの環境規制を取り払い、石炭やシェール資源の開発認可にのり出した。だが、さらに重要なことはトランプ大統領の一撃によって、国際政治における温暖化の意味が一変してしまうことである。それは温暖化交渉がまとっている理想主義をはぎ取り、1992年に成立した国連気候変動枠組み条約にまでさかのぼって考えることを、われわれに強いるものである。

≪環境外交の牽引車となった独≫

 そもそも同条約は、二酸化炭素(CO2)が温暖化をもたらしているか、科学的結論が明確になる前に成立した「予防原則」に立つ史上初の環境条約である。なぜ、そんなことが起こりえたのか。

 それは89年11月にベルリンの壁が突然崩れ、米ソ核戦争の恐れが著しく遠のいたからに他ならない。このとき、国際政治という特殊な空間は、核戦争の脅威に代わる新しい脅威を必須のものとした。そして、この空隙に向かって外交課題の順位表をかけのぼってきたのが地球温暖化問題である。

 しかもこの時、地球温暖化を国際政治の重要課題に格上げしようとする有力な国が現れた。冷戦期に東西に分断され、再統一を目指すドイツである。だが第一次、第二次世界大戦はドイツによる欧州覇権という国家的野望が原因であると考えるサッチャー英首相などは、大ドイツの復活に反対した。

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