文芸記者が読む

芥川賞芸人、又吉直樹さんの新作「劇場」 いつの時代の読者でもわが身を振り返る青春という永遠の普遍性 

“事件”になるか?

 この「劇場」が仕上げ段階に入ったころの文芸誌のインタビューで、又吉さんは、「火花」の作品としての内容が文学界で事件にならなかったことへの落胆を語っている。

 「『芸人が小説を書いた』というところはすごく取り上げていただいたんですけど、文学の世界に貢献できひんかったなっていうのは一つあるんです。(略)そういう意味では事件にならなかった。作品にそこまでの特別な力がなかったということですね」(「火花」から二年、ついに二作目発表へ=「文学界」3月号)

 叙述の方法にあまり冒険心が感じられないこと、などを指摘する厳しい声も今後出てくるかもしれない。

 見た目には激しい起伏もないこの物語には、一読事件となるような派手さはない。

 それでも、ここには、数年後、数十年後の読者でも、わが身を振り返ってしまうのでは? と思えるような普遍性がある。

 青春期の痛々しいまでの自意識。過去に後戻りはできないという冷厳な現実から来る後悔や悲しみ。そんな複雑な感情が丁寧にすくい上げられている。

 読み返すほどに味が出てくる作品、ともいえる。そして、そんな物語を差し出すのは、きっと今すぐ事件として騒がれるよりもはるかに難しく、痛快なことなのだ。(文化部 海老沢類)

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