文芸記者が読む

芥川賞芸人、又吉直樹さんの新作「劇場」 いつの時代の読者でもわが身を振り返る青春という永遠の普遍性 

詩的な文章で始まる

 〈まぶたは薄い皮膚でしかないはずなのに、風景が透けて見えたことはまだない。もう少しで見えそうだと思ったりもするけど、眼を閉じた状態で見えているのは、まぶたの裏側の皮膚にすぎない。あきらめて、まぶたをあげると、あたりまえのことだけれど風景が見える〉

 「火花」は熱海の花火大会の情景から書き起こされていた。この「劇場」の冒頭は、ただ風景を切り取るのではなく、どこか内省的な印象。一編の詩のような味わいもあって、一気に引き込まれた。

 主人公は、東京で劇団を率いる劇作家の「僕」(=永田)だ。郷里の友人と旗揚げした劇団の舞台は酷評にさらされ、客が入らない。バイトもクビになり収入はほとんどない。

 食費を削る日が続き、病的に痩せた「僕」は、肉体と意識が別々のように感じる異様な状態のまま、あてもなく東京の街をさまよう。

 そんなとき、原宿の雑踏で見かけた1人の女性に声をかける。高校を卒業、女優を目指して青森県から上京して服飾関係の大学にも通っている学生の沙希だ。「僕」は下北沢にある沙希の家へ転がり込み、2人での東京生活が始まる。

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