かつて小紙が開催していたセミナーの講師として、アートディレクターの長友啓典(けいすけ)さんを招いたことがある。テーマは、「お酒の呑み方、付き合い方」だった。
▼若き日の長友さんは、夜な夜な新宿ゴールデン街を飲み歩いていた。カメラマンの篠山紀信さん、作家の開高健さん、演出家の唐十郎さん…。あらゆる分野から風雲児たちが集まって、熱い議論をかわしていた。
▼あるとき、美空ひばりさん宅で打ち合わせをしていると、ゴールデン街が話題になった。「行ってみたい」というひばりさんのキャデラックで乗り付けた。安酒場でひばりさんの生歌を聴く至福を味わったのは、何よりの思い出である。
▼銀座や六本木へのはしご酒もしょっちゅうだった。酒と美食にビル数軒分、数億円をつぎ込んだ日々を、長友さんはちっとも後悔していない。時代を鋭く切り取ったポスターや本の装丁が生み出せたのは、酒場で出会った友人たちのおかげだと信じているからだ。