これと対照的なのは、オバマ前大統領のシリア脱関与やEUの不関与である。国連を介したシリア問題解決でも具体的なレバレッジ(梃子(てこ))をもたない両者の存在感は希薄であり、トランプ政権が打ち出した「安全地帯」構想も、秩序安定の実現がはるかに重要だとアサド氏にかわされてしまった。
トルコは、国内のクルド民族運動がシリア北部で支配領域を拡大中のYPG(クルド人民防衛隊)と結合する事態を警戒している。トルコ軍がシリアに進駐したのは、YPGがトルコ国境沿いの北部地域を占拠してトルコとスンナ派アラブ世界の接触ルートをすべて遮断される危機感が深まったからだ。ISを国境から遠ざけ、YPGを北シリアの東西に寸断する狙いがシリア軍事介入の動機であった。
他方、ロシアにとって、テヘランからバグダッドを経てダマスカスそしてベイルートに至る「シーア派枢軸」あるいは「新ペルシア帝国」の出現は、東地中海とシリアにせっかく獲得した政治勢力圏と軍事権益を脅かすものでしかない。