冷戦期の中東にバグダッド条約機構という集団安全保障システムが存在した。1955年につくられ、58年のイラク革命で消滅してしまった。短命だった別名、中東条約機構(METO)には、トルコ、イラク王国、英国、パキスタン、イラン王国の5カ国が加盟し、米国はオブザーバーで参加した。共産主義とソ連(ロシア)の脅威から中東を守る組織体であったが、60年以上たった中東の構図は根本的に様変わりしている。
今年の1月にカザフスタンの首都アスタナで開かれたシリア和平協議は、ユーラシア地政学と中東複合危機の構図を変えてしまった。それは、ロシア、トルコ、イランの間に、シリア問題解決と「イスラム国」(IS)駆逐のために「同盟」が組まれたからだ。2015年11月のトルコ軍のロシア軍機撃墜をめぐる対立、シリアの地上戦当事者として緊張関係にあるトルコとイラン、アサド政権の失地回復を支援したロシアとイラン。利害対立がからむとはいえ、3国はシリア問題を正面から解決できる責任国家なのである。