孫のしぐさに、目元のしわをいっそう深くしてほほえむおじいちゃん。川遊びをする男の子や女の子-。人形作家、岡本道康さん(47)=香芝市=がつくる人形は、切なくなるほど懐かしい。素材は吉野杉の木くずを使った「森のねんど」。林業の衰退に心を痛め、「大好きな森を守りたい」と始めた作品作りは、新たなステージへ向かおうとしている。(田中佐和)
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京都府京丹波町で生まれ、7歳まで自然豊かな里山で育った。だが都会へ引っ越し、時代が移り変わると、「田舎」はいつしか遠い存在になったという。
20歳のころから粘土を使った人形制作を始め、結婚後は妻の父親が経営する香芝市の会社で電気制御システムの仕事に従事。人形作家と技術者の「二足のわらじ」をはいた。
だが、2008年のリーマンショックでどん底を経験。「産業とアートを結びつけたい」との夢があったが、無力さを突きつけられた気がした。
「家の裏の割りばしの作業所では毎日木くずをたくさん燃やしてるんだ」。転機となったのは、吉野に住む知人の一言だった。幼い日を過ごした里山への憧憬は深く、以前から安い輸入材に押されて林業が衰退していくのを寂しく感じていた。「捨てられるはずの木くずで人形を作れば、森林資源を生かす仕組みになる」。思いつくとすぐ、吉野へと向かった。
吉野杉で作られる割りばしの木くずはくすみがなく、人肌の色合いを出すには最適だった。「田舎へ帰る懐かしさを表現したい」と、土壁のような風合いを出すために、素材には木くずだけでなく土を加えた。その土地の木と土を使った粘土を岡本さんは「森のねんど」と名付けた。
平成27年に出版した写真集「森のねんどの物語」。吉野町の美しい風景の中で、人形たちが生き生きとした表情を見せている。川の飛び石の上や森の中、材木置き場。その姿は学校帰りの子供であったり、作業服姿の年配の職人であったり。「森の木が木材となり、木材から出た木くずが人形となって生まれた森へ帰る。『吉野の物語』を通じて、木が再生する流れを感じてもらいたい」との思いが込められている。
今後は吉野杉だけでなく、地域ごとの素材を使った粘土で人形を作ることが目標だ。「人形を通してその土地の物語が生まれて、新しい産業の仕組みづくりにつながればいいなと思います」と、夢を語った。
岡本さんは4月から、けいはんなオープンイノベーションセンター(京都府木津川市・精華町)で創作教室「森のねんど講座」を開く。受講申し込みや問い合わせは岡本さん(電)090・1025・7467。