鑑賞眼

「四千両」断然の面白さ 歌舞伎座「猿若祭二月大歌舞伎」

 「猿若祭」とは、初代猿若勘三郎が江戸で初めて歌舞伎を始めた伝説を記念する興行。昭和51年を最初に折節開かれ、今回が4度目。家系を引き継ぐ中村勘九郎・七之助兄弟が昼、猿若と出雲の阿国にふんし、江戸歌舞伎発祥のいわれを踊る「猿若江戸の初櫓」で開幕。夜の初め、「門出(かどんで)二人桃太郎」では、勘九郎の長男が三代目中村勘太郎、次男が二代目中村長三郎を名乗り、初舞台を踏んだ。

 昼は他に尾上松緑(おのえ・しょうろく)、中村時蔵で「大商蛭子島(おおあきないひるがこじま)」と中村梅玉(ばいぎょく)、中村雀右衛門(じゃくえもん)が艶やかに踊る「扇獅子」。そして、「四千両小判梅葉(しせんりょうこばんのうめのは)」が面白さ、断然。河竹黙阿弥の名調子とリアリズムで江戸の日常が立体化する。江戸城の御金蔵(ごきんぞう)破りを企てる元中間(ちゅうげん)・富蔵(尾上菊五郎)と旧主の息子・藤十郎(梅玉)の芝居の濃淡。主従の境界をふわふわさまようやりとりが絶品だ。富蔵の下手の裏の貫禄、藤十郎の武士の面目を保ちながらの小心ぶり。大見物が、「伝馬町西大牢の場」。間口いっぱいに設置された牢内に30人を超える囚人ひしめく様子の迫力。牢名主で市川左團次。

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