全盲の文化人類学者・広瀬浩二郎さんが企画「さわって楽しむ体感展示」 奈良県立文化会館

全盲の文化人類学者・広瀬浩二郎さんが企画「さわって楽しむ体感展示」 奈良県立文化会館
全盲の文化人類学者・広瀬浩二郎さんが企画「さわって楽しむ体感展示」 奈良県立文化会館
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 普段は見て鑑賞する仏像や土器に直接触れられるイベント「さわって楽しむ体感展示」が奈良市の奈良県文化会館で開かれている。展示アドバイザーを務めたのは、全盲の文化人類学者で国立民族学博物館(大阪府吹田市)准教授の広瀬浩二郎さん(49)。「現代はあまりに視覚に依存している」と、触れることで初めて実感する喜びや面白さを伝えたいという。

 展示は今秋県内で同時開催される「国民文化祭」と「全国障害者芸術・文化祭」のプレイベント。会場には、興福寺仏頭(国宝)の模造や、県内で出土した古墳時代の須恵器や土(は)師(じ)器の破片、県出身の大相撲力士・徳勝龍関の腕の模型など、障害のある人もない人も触れて楽しめるユニークな展示が並ぶ。

 「千年以上前のご先祖様が手で作った土器片に触ることで、古代の人と間接的に握手ができる」。「触(しょく)文化論」が専門の広瀬さんは展示の魅力をこう話し「そこから歴史のイマジネーションは広がる」と続ける。

 広瀬さんは1歳のとき、白内障で左目を失明した。右目も弱視で手術を繰り返したが良くならず、13歳のとき完全に視力を失った。「これから大変だ」とは思ったが、当時通っていた盲学校は楽しく、仲間も多くいた。「こいつらと一緒なら何とかなるか」と悲観はしなかったという。

 当時、愛読していたのは作家、司馬●太郎さんの小説。『関ケ原』や『空海の風景』に熱中し、いつしか歴史学を志すようになった。1年の浪人生活の末、京都大文学部に進学した。

 以後、京大大学院、民博勤務と、研究人生を歩む中で形作られたのは、「現場に行けば何とかなる」という考えだ。文献相手の歴史研究で目が見えないのは不利だが、迷いながらも現地調査に赴けば、「人々は目の見えない自分を覚えて親切に話してくれる」。視覚を「使えない」のではなく、「使わない」という発想転換で、プラス思考を持つことができたという。

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