〈次の地震に巡り合わせた人に、どんな伝言を残しますか?〉
平成27年12月に開業した仙台市地下鉄東西線の東の終着駅で、東日本大震災で被災した沿岸部に位置する荒井駅(同市若林区)。その構内の「せんだい3・11メモリアル交流館」で震災当時の経験をカルタで伝える企画展「街からの伝言板-紡がれたことばたち-」が開かれている。
◆手に取って鑑賞
真新しい駅舎2階のスペースに、ひらがな1文字と絵が描かれたA3サイズのカルタの絵札46枚が並ぶ。裏側は読み札となっており、市内各地で震災に遭遇した人々の当時の思いや体験が記されている。会場では一枚一枚、手に取って鑑賞できる。
何枚か手に取ると、そこには震災を体験した人ならではの「目線」が残されていた。
《も》…もらい湯にいったりとか
「うちはお風呂沸くからおいで」と言われ、お風呂に入りに行った経験。
《す》…「好きなだけ買っていいよ」っていうんだ
「数量制限はありますか」と聞かれて、「任せっから。でも後ろを見てください」と並ぶ人々を指すと、その人は本当に必要な分しか買わなかった。それがうれしかったという青果店店主の話。
《ふ》…復元された写真
津波で汚れてしまった写真の復元を頼まれた写真店店主。被写体となった人はこの世にいない。想像して復元するしかなかった。
《ら》…ライトを一箇所でも照らして
避難所では電気が付かないと何もできない。暗いと非常に不安になる。被災した人々は実際に体験し、実感したという。
ささいなことでも、実際に体験したからこそ、実感できることばかりだ。
訪問者に教訓を
カルタは市の震災メモリアル・市民協働プロジェクト「伝える学校」で、大学生らが仙台市内の被災者100人以上に実施した聞き取りをもとに制作された。つい手に取りたくなるポップな絵札のイラストは仙台市出身のミュージシャン、Kenichi Waga(ケンイチ・ワガ)さんが手がけた。会場には、盛岡市出身の鳥瞰(ちょうかん)図絵師の中田匠さんが描いたJR仙台駅周辺の鳥瞰図も展示され、カルタに描かれた出来事が起きた場所も示されている。
同交流館の八巻寿文館長は「時間がたつに連れて、震災当時を知らない子供たちも増えた。被災者が感じたことを、伝えていくきっかけになれば」と話す。
東京都江戸川区から被災地見学に訪れたという50代の女性は「仙台の人々の震災当時の生活を知ることができた」と話した。
昨年2月に全館オープンした交流館は、市内で初めてとなる津波伝承施設。館内には震災に関する常設のパネル展示や、震災前の沿岸部の街並みを再現した模型が展示されている。
被災地域にも近く、各地から被災地を訪れた人々が立ち寄る。震災前の暮らしから、現在の復興状況を見つめ直すようなコンセプトで、八巻館長も「訪れた人や地元の人が交流するための拠点を目指している」と話す。
今後も、訪問者が教訓を持ち帰れるような企画を実施していくという。仙台市から一番近い沿岸被災地にある同館の挑戦は続く。(上田直輝)
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企画展は2月12日まで(月曜休館)。開館時間は午前10時〜午後5時。2月11日午後2時からはトークイベント「インフラを繋ぎ直した人たち」を開催する。問い合わせは同館(電)022・390・9022。