「拉致被害者帰国を第一に」 家族ら集会で訴え

「拉致被害者帰国を第一に」 家族ら集会で訴え
「拉致被害者帰国を第一に」 家族ら集会で訴え
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 北朝鮮による拉致被害者の奪還を呼びかける集会が29日、埼玉県川口市で開かれ、家族会代表で田口八重子さん(61)=拉致当時(22)=の兄、飯塚繁雄さん(78)が「核・ミサイル問題も重要だが、政府は拉致被害者の帰国を第一、最優先で取り組んでほしい」と強調した。

 同県に関係する拉致被害者や、拉致の可能性が排除できない特定失踪者の家族ら約300人が参加。講演で飯塚さんは「どんな手段でも被害者を取り返すことが大事。極端だが、1人3億でも払って帰ってくればいい」と話し、経済支援も含め、あらゆる手段で北朝鮮の対応を引き出すべきだとした。

 田口さんの長男、飯塚耕一郎さん(39)は「人生で一番重要な時間を奪われた。拉致は外交問題ではなく犯罪だ」と強調。集会の最後には会場全員で「故郷」を合唱し、被害者の奪還を誓った。

 ■存在浮く「特定失踪者」

 「連れ去られたことさえ気付かれず、北朝鮮で助けを待つ人が大勢いる。これが拉致の闇の深さだ」。この日、聴衆を前に藤田隆司さん(58)は訴えた。

 兄の進さん=失踪当時(19)=は昭和51年2月7日に消息を絶った特定失踪者だ。平成16年、北朝鮮から流出した男性の写真が鑑定で進さんと判明。元工作員の証言からも拉致が濃厚となり、実名を明かして救出に取り組んできた。

 北朝鮮が拉致を認めた14年以降、日本政府は17人を被害者と認定。だが、特定失踪者は認定もなく「中ぶらりんの存在」で、認知度は低かった。国連人権理事会で進さんの問題を訴える機会もあったが、進展なく41年がたとうとしている。

 特定失踪者に初めて光が当たったのは、26年のストックホルム合意だった。北朝鮮はすべての拉致被害者の再調査を約束し、未発覚の被害者を含め、帰国の可能性がにわかに浮上した。だが、北朝鮮は核実験を強行するなど態度を硬化、一方的に調査を打ち切った。

 「奪還できず、拉致とも認めてもらえないなら、(国は)せめて真実を明らかにする姿勢を見せてほしい」。隆司さんは厳しい表情で思いを語る。

 隆司さんが頼りにするのは拉致に怒り、声を上げる国民の本気度だ。問題が膠着(こうちゃく)し風化も懸念される中、あらゆる手段で進展をたぐり寄せる「国の本気」も同様に切望している。900人近くの特定失踪者の家族も、同じジレンマを胸に肉親の帰りを待っている。(中村昌史)

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