熱血弁護士・堀内恭彦の一筆両断

テロ等準備罪 建設的な議論を期待する

 1月20日召集された通常国会において、政府は、犯罪を行おうと2人以上で合意した段階で処罰できる「テロ等準備罪(共謀罪)」を新設する組織犯罪処罰法改正案の成立を目指している。「共謀罪」関連の法案は過去に3度提出されたが、「人権侵害の恐れがある」などと激しい反対に遭い廃案に追い込まれている。今回は適用対象を「組織的犯罪集団」に限定し、資金調達などの「準備行為」を要件に加え、対象となる「懲役・禁錮4年以上の罪」についてもさらに数を絞り込む方向で調整している。

 政府としては高い政権支持率を背景として、「今回こそは!」の意気込みであろう。背景には、国連総会で2000年に採択された国際組織犯罪防止法条約を締結する要件として国内法の整備が必要であること、2020年の東京五輪・パラリンピックに向けてテロ対策が急務であることなどの事情がある。

 テロ対策が必要であることは言を俟(ま)たないが、ことはわれわれ国民の人権に関わることであるから、慎重な議論が必要である。

 この法案の問題点は種々あるが、何よりも対象となる「合意の内容」が人の内心にのみ存在し、現実に法益侵害が生じていない段階で処罰するものであるから、近代刑法の原則と真っ向から対立するものであることは否定できない。「人の自由や権利を制限する刑罰は必要最小限のものに限るべきである」という刑法の謙抑(けんよく)性の考え方から、日本の刑法も「既遂」処罰を原則とし、法益侵害の大きさや危険性に応じて、例外的に「未遂」「予備」「共謀」の順に処罰するという法体系を採っている。今回の法案はこの原則を破り、一気に「共謀」のみを広く処罰する点で問題を孕(はら)んでいる。

 また、仮にこのテロ等準備罪(共謀罪)が成立したとしても、実際の捜査現場で実効性はあるだろうか?

 通常の捜査は、殺人などの「結果」が発生し、そこから犯人の特定、動機の解明、共犯者の割り出しというように客観的に起こった「結果」を起点として捜査が進められていく。しかし、テロ等準備罪(共謀罪)には「結果」はなく、いきなり「共謀」だけが問題となる。「共謀」だけを独立して処罰するとなると、どうやって逮捕・立件していくのか?「共謀」そのものが捜査の対象となるのであるから、「組織犯罪集団」と疑われる集団に対して日常的に監視したり、盗聴したりしなければ、実効性のある捜査はできない。しかし、広範な通信傍受やおとり捜査などが認められていないわが国の捜査手法ではおのずと限界があり、捜査の端緒(きっかけ)をつかむことは極めて困難である。

 また、仮に捜査の端緒をつかんだとしても、内心の意思がどうであったかということの証拠は「供述」しかなく、結局は被疑者らの供述に頼るしかない。果たして裁判において裁判官を納得させるだけの供述の信用性が確保できるであろうか?ハードルはかなり高い。実効性を求めるのであれば、新たな捜査手法の導入や裁判手続についても詰めた議論を行うことが不可欠である。

 この法案が国民を守るためのテロ対策として必要だということであれば、なおさら、国会では中身をしっかりと吟味し、その必要性、妥当性、危険性、実効性について国民の理解と納得が得られるよう、建設的な議論がなされることを期待する。

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【プロフィル】堀内恭彦

 ほりうち・やすひこ 昭和40年、福岡市生まれ。福岡県立修猷館高校、九州大学法学部卒。弁護士法人堀内恭彦法律事務所代表。企業法務を中心に民事介入暴力対策、不当要求対策、企業防衛に詳しい。九州弁護士会連合会民事介入暴力対策委員会委員長などを歴任。日本の伝統と文化を守る「創の会」世話人。趣味はラグビー。