ちば人物記

バイオリニスト・岡本誠司さん(22) 「世界を舞台に演奏していく」

 3年前の夏、愛器を手にして若武者の如くドイツ・ライプチヒに乗り込んだ。若手音楽家の登竜門、国際バッハコンクールに挑戦する。世界中の才能輝く若者たちが集結し、全力を尽くして競い合った。

 1次、2次予選、セミファイナルを突破した。最後の関門、ファイナルに臨んだ。ひるむことなく大舞台に立った。

 審査員と聴衆の視線が一点に集中する。荘厳な雰囲気の中、静かにバイオリンを弾き始めた。心は澄んでいた。胸を揺さぶるような音色に涙を流す聴衆もいたという。魂を込めた演奏が終わった。発表が行われた。1位。日本人初の快挙となった。「うれしかった。これから演奏のチャンスが広がる。より多くの人に聴いてもらえるバネになる」

 千葉県市川市生まれ。いわゆる音楽一家ではない。父は会社員、母は主婦という普通の家庭で育った。3歳の頃、母親が「ピアノを習ってみない」と声を掛けた。幼い岡本少年は「ピアノよりこういうのがいい」といってバイオリンを弾く身振りをしてみせた。近所に住む年上の少女がバイオリンを習っており、その影響があったようだ。少女のお下がりのバイオリンを借りて近所の音楽教室に通い、稽古を始めた。

 「最初は音が出ない。ギコ、ギコと弾いていた。少しずつまともに弾けるようになっていった」

 小学生の頃から、バイオリンの指導者の縁で毎年夏休みに長野県で開催される国際音楽祭に出かけ、欧州の一流音楽家の演奏を聴く機会に恵まれた。

 「外国の先生と一緒に演奏してみたいという希望が芽生えていった」

 だが、多感な少年時代。バイオリン一直線だったわけではない。将来の夢は揺れ動く。「迷いがなかったといえばウソになる。サッカー選手、将棋棋士、宇宙飛行士、そして新聞記者にも憧れた」

 中学生になってから、イタリアで開催された国際コンクールに出場した。2位となった。海外の審査員に評価されたことで迷いがふっきれた。

 「自分は音楽を一生やっていきたい。クラシック音楽の世界は甘くない。バイオリンを極める」と腹をくくった。全国の俊才が挑む超難関、東京芸大付属音楽高校を受験し、合格した。そして東京芸大進学を果たす。

 クラシック音楽についてこう語る。

 「クラシック音楽は言葉がない。音だけの世界。音色を生で聴くと、痛み、苦しみの心が癒やされる。いや、それよりもっと深い感覚なのかも…。幸せな気持ちになれる」

 高度な指導を受け、才能は見事に開花していく。昨年10月、ポーランドで開催された国際コンクールでは2位となった。同11月には雪が激しく舞うロシアの古都、サンクトペテルブルクで公演を行った。

 今春、大学を卒業する。将来を見据えた進路を考えている。

 「欧州に留学し、拠点を置きたい。世界を舞台に演奏していく。何百年も昔の作曲家の思いを多くの人の心に届ける音楽家になる」(塩塚保)

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【プロフィル】岡本誠司

 おかもと・せいじ 平成6年、千葉県市川市出身。東京芸大付属音楽高校卒業。東京芸大音楽学部在学中。国際バッハコンクール・バイオリン部門で1位。プロ野球の巨人ファン。好きな作家は夏目漱石。おでんが好物。信条は「自然体」。

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