《28年の歳月の中で、スコセッシ監督は少しずつ原作への理解を深めていった》
若い頃に作っていたら、もっと違う物語になったでしょう。私は当初はロドリゴに「殉教者の栄光」のようなものを感じ、感情移入していました。しかし、次第に幾度となく棄教し、ロドリゴを密告するなど裏切りを繰り返すキチジロー(窪塚洋介)に関心が移っていったのです。
卑屈でいらいらさせられるキチジローは、われわれそのものです。映画の中で、彼は「弱き者に生きる場所はあるのか」と問う。強くなれる者もいれば、なれない者もいる。誰もが強くなる必要はないのです。
《虫の声、海鳴り、山を吹き抜ける風…。作品の随所で自然の音が印象的に使われている》