「なぜ控訴したのか」「死刑が怖くなった…」
大阪・心斎橋の路上で平成24年6月、男女2人が無差別に刺殺された事件。大阪高裁の控訴審で、被害者参加した遺族が、礒飛(いそひ)京三被告(41)を厳しい口調で問いただした。逮捕直後、「人を殺せば死刑になると思った。誰でもよかった」と供述した礒飛被告。1審大阪地裁の裁判員裁判で極刑とされたが、遺族のこの質問に「もう一回判断してほしい」と伏し目がちに答えた。世間を震撼(しんかん)させた通り魔のイメージはなく、死におびえる中年の男の姿がそこにあった。起こした事件は不条理そのものだ。最愛の家族を無残に奪われた遺族は、死刑を受け入れない被告にやり切れなさを募らせた。
法廷でぶつかる感情
「あんたに殺された人の父親から質問します」
28年11月8日、礒飛被告の控訴審初公判。犠牲となった音楽プロデューサー、南野信吾さん=当時(42)=の父、浩二さんが被告人質問に臨んだ。
メジャーデビューも果たした自慢の息子。3人の娘の父親としても、幸せな生活を送っていた最中の惨事だった。
浩二さん「1審では『私にふさわしい刑は死刑しかないと思う』と言っていた」
礒飛被告「ふさわしいと思うが、死刑になるのは怖い…」
浩二さん「私はあなたが死刑に納得していると思った。なぜ控訴したのか」
礒飛被告「もう一回判断してもらいたかった」
浩二さん「私の息子を確実に死んだことを確認するまで、何度も刺したね」
礒飛被告「事件のことはあまり覚えていません」
こみ上げる怒りから、語気を強めて質問をする浩二さんとは対照的に、礒飛被告の声は弱々しい。