銀幕裏の声

「海賊とよばれた男」のもう一つの顔-出光佐三、荒れ果てた故郷の神社を私財投じて復興、有力世界遺産候補に

名を残さぬ美学

 だが、この多大な佐三の功績について、現在も深く知る者は地元でも多くはない。なぜなのだろう?

 「佐三氏の功績を後世に伝えるため、神社では佐三氏の名前を刻んだ記念碑の建立を望んだのですが、目立つことを嫌う彼はこれをかたくなに拒否。神社のどこにも佐三氏の名は遺されていないのです」と鈴木さんは語る。

 名前を刻む碑はないが、神社内の一角に三カ所だけ、石に刻まれた佐三の揮毫(きごう)が残されている。沖津宮の分霊を祀る「第二宮(ていにぐう)」の文字、中津宮の分霊を祀る「第三宮(ていさんぐう)」の文字。そして、二つの宮の前に置かれた手水鉢に書かれた「洗心」の文字。この三つの揮毫のみが、佐三の神社復興に尽くした証しなのだ。

 佐三の生家がある宗像市の赤間地区では昨年末、地元有志が、佐三の功績を紹介する写真や資料を並べた小さな展示館を開館した。

 「実は赤間地区の小・中学校の図書館など、佐三さんが故郷のために寄贈してくれた施設は多い。しかし、本人の強い意志で、一切、彼の名前を記すものは残されていないのです」と赤間在住で、同館のボランティアスタッフを務める伊豆幸次さんは言う。

 「地元でも、今では高齢者などしか、佐三氏の功績を知らない。私たちの手でなんとか彼が故郷へ残した功績を少しでも後世へと伝えたい。映画の公開や世界遺産選定などをきっかけに、広く伝えることができれば」と伊豆さんたちボランティアスタッフは期待を込める。

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