若手花形が大役に挑む。真摯(しんし)な作品解釈と伝統に沿い、それぞれが丁寧に勤める芝居ぶりがすがすがしい。
3年連続で先頭に立つ尾上(おのえ)松也が1部「吉野山」の佐藤忠信実は源九郎狐で、天性のしなやかさと芝居力を見せる。「義経千本桜」では、昨年もこの新春で「四ノ切(しのきり)」の同役を勤めたが、道行舞踊となってひと際、妖しさと華が増した。静御前の中村壱太郎(かずたろう)の手慣れた風情と溶け合い、主従ながらも男雛女雛(おびなめびな)の心得通りの見ほれる美男美女ぶりから竹本、清元の掛け合いで踊り、物語る風姿が背景の桜を付録にしてしまう。坂東巳之助(みのすけ)が早見藤太。松也は2部でも「双蝶々曲輪(ふたつちょうちょうくるわ)日記」の「角力場(すもうば)」で、見事な放駒(はなれごま)長吉を勤める。上置き出演の中村錦之助の濡髪(ぬれがみ)長五郎の大人の理屈に傷つき、真っ向から勝ち目のない力比べに走る。若者の純真が爆発する。最後は「棒しばり」の次郎冠者(かじゃ)。両手を縛られたまま曲芸なみに踊る。巳之助の太郎冠者、大名に中村隼人。
1部頭の「傾城反魂香(けいせいはんごんこう)」では、巳之助の浮世又平と壱太郎の女房、おとくが夫婦愛を丁寧に見せて感動的。吃音(きつおん)の夫をかばう前半のしゃべりと後半の慈愛の黙り。細やかな所作がいとおしい。隼人が狩野雅楽之助(うたのすけ)、土佐修理之助が中村梅丸。土佐将監(とさの・しょうげん)に大谷桂三。
隼人は、2部では全演目に出演。「御存(ごぞんじ)鈴ケ森(すずがもり)」の白井権八(ごんぱち)が涼しく極まる。優男(やさおとこ)役は「角力場」の与五郎よりずっと良い。父の錦之助が幡随院(ばんずいいん)長兵衛。26日まで、東京・浅草公会堂。(劇評家 石井啓夫)