ベテラン記者コラム

ヒラリーと「ガラスの壁」 「ねばねばの床」という新視点 大阪編集局特別記者・石野伸子

 賃金格差には教育年数の違いなど人的資本量の違いによる格差、つまり「説明できる格差」と、そうでない格差がある。問題なのは「説明できない格差」で、ここに男女差別の芽が潜んでいる。実はこの格差が目立つのは賃金の上位層と下位層。つまり上位層においてみられるのが「昇進の壁」「ガラスの天井」。一方、下位層にも明らかに「説明できない格差」が見られ、これを原准教授は「スティッキー・フロア」「床への張りつき」と命名した。

 「女性たちは賃金の低い企業に勤務しやすく、企業内で賃金の低い仕事を割り振られやすい」。床への張りつきを余儀なくされ、安い給料に甘んじる結果になると説明する。

 スティッキーとはベトベトとかねばねばした状態を示す言葉。つまり「ねばねばの床」。果たして女性たち自身が「ねばねばの床」を好んでいるのか。今年盛んに論議された「働く主婦の130万円の壁」もねばねばの床の温床か。

 来年は企業の天井と床をしっかり点検し、政府がめざす働き方改革を進める、ってのはどうでしょう。

 昭和49年、産経新聞大阪本社入社。文化部長、編集局次長をへて東西本社で編集局編集委員。長く文化部の生活面を担当し、衣食住全般について取材してきたことから、生活実感に基づき自分の足と感性で発見した事柄を書く「共感する記事」を書くことを信条としている。しかし、ために、ときに唯我独尊に陥ることもあり。著書・共著に新聞連載をまとめた「女50歳からの東京ぐらし」「九転び十起き! 広岡浅子の生涯」(いずれも産経新聞出版)などがある。

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